アリスズ
△
「あれ? 何でダイが来たんだ?」

 町の兵士の詰所に現れた彼に、菊は驚いた。

 ダイの肩書は、近衛隊長。

 いわゆる、イデアメリトスと宮殿の警護が仕事ではないのか。

 ここは、町の詰め所だ。

 いわゆる、警察署のようなもの。

 市井の治安に関することは、ダイの管轄外のはず。

 とっ捕まえた悪漢を、とりあえず菊は詰所に連れて行ったのだ。

 黒幕について口を割らせたいと思ったのだが、三人も引きずっていくのは骨が折れる。

 とりあえず、詰所で拘束してもらい、梅を経由してダイにでも頼もうと思っていたのだが。

「ああ…そうか、梅か」

 そこまで考えて、理解した。

 既に、彼女の相棒は、手を打っていたのか、と。

「昼間、要請があった」

 頷きながら、ダイは答える。

 菊のカツラを用意しながら、梅はもっとすごい用意もしていたのだ。

「身柄は、近衛隊が正式に預かる…」

 答えながら、彼はしげしげと菊を見た。

 すっかり取り払ったカツラを、手の中で回していた彼女は、その視線に顔を上げる。

「ああ、ちょっと頑張ってみた」

 視線の意図に気づいて、ニヤニヤしながら菊はカツラをがばっとかぶる。

 長髪、化粧、スカートに無帯刀。

 シェローおすみつきの、可愛い子ちゃんの出来上がり、だ。

「おかげで、すぐに食いついてくれたよ」

 再び、がばっとカツラを取り払う。

 ダイは、そんな彼女に苦笑で答える。

「ついでに…黒幕も吐かせてくれないか? お妃さまの周辺の掃除だと思って」

 近衛隊が、正式に噛むための口実を、菊は手のひらに乗せた。

「ああ…分かった」

 ぼりぼりと、ダイは首をかいた。

 どうやら彼は──この小綺麗な格好の菊は、苦手のようだ。
< 429 / 511 >

この作品をシェア

pagetop