アリスズ

「あれ? 何でダイが来たんだ?」

 町の兵士の詰所に現れた彼に、菊は驚いた。

 ダイの肩書は、近衛隊長。

 いわゆる、イデアメリトスと宮殿の警護が仕事ではないのか。

 ここは、町の詰め所だ。

 いわゆる、警察署のようなもの。

 市井の治安に関することは、ダイの管轄外のはず。

 とっ捕まえた悪漢を、とりあえず菊は詰所に連れて行ったのだ。

 黒幕について口を割らせたいと思ったのだが、三人も引きずっていくのは骨が折れる。

 とりあえず、詰所で拘束してもらい、梅を経由してダイにでも頼もうと思っていたのだが。

「ああ…そうか、梅か」

 そこまで考えて、理解した。

 既に、彼女の相棒は、手を打っていたのか、と。

「昼間、要請があった」

 頷きながら、ダイは答える。

 菊のカツラを用意しながら、梅はもっとすごい用意もしていたのだ。

「身柄は、近衛隊が正式に預かる…」

 答えながら、彼はしげしげと菊を見た。

 すっかり取り払ったカツラを、手の中で回していた彼女は、その視線に顔を上げる。

「ああ、ちょっと頑張ってみた」

 視線の意図に気づいて、ニヤニヤしながら菊はカツラをがばっとかぶる。

 長髪、化粧、スカートに無帯刀。

 シェローおすみつきの、可愛い子ちゃんの出来上がり、だ。

「おかげで、すぐに食いついてくれたよ」

 再び、がばっとカツラを取り払う。

 ダイは、そんな彼女に苦笑で答える。

「ついでに…黒幕も吐かせてくれないか? お妃さまの周辺の掃除だと思って」

 近衛隊が、正式に噛むための口実を、菊は手のひらに乗せた。

「ああ…分かった」

 ぼりぼりと、ダイは首をかいた。

 どうやら彼は──この小綺麗な格好の菊は、苦手のようだ。
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