アリスズ
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 ダイには、3つの注目することがあった。

 ひとつは、異国人関係者を狙った暴漢。

 暴漢については、ウメから前に相談を受けていた。

 彼女の側仕えが、既に被害を受けている。

 その時点で、宮殿に出入りの出来る貴族の仕業に他ならない。

 キクの方は、剣術道場という特性上、手を出しづらいというものがあったようで。

 さすがに、現役兵士の門下生に斬りかかる度胸のある暴漢は、いなかったようだ。

 消去法で、狙われたのが子供ということだろう。

 殺す、ではなく、かどわかそうとしていた、ということがダイには気になった。

 おそらく、正攻法でキクを殺すのは難しいと思った連中が、人質を盾に彼女を脅そうとでも考えたに違いない。

 貴族が絡んでいるだけに、難しい話になる。

 ダイの身分では、口を割らせるところまでしか出来ないだろうし、それ以前に貴族に手を打たれ、暴漢たちを違う部署に持って行かれかねない。

 それをひっくり返すには、イデアメリトスの名を使わなければならないのだ。

 だが、この件に限って言えば、難しいものだった。

 何故なら、この暴漢たちは、街の中で犯罪を犯したのだ。

 宮殿ではなく、イデアメリトスの関係者や貴族を狙ったわけでもない。

 近衛隊が預かる道理が、そこにはないのだ。

 不利な問題を前に、ダイは考え込まなければならなかった。

 そんな彼に、ふたつめの注目する点が現れた。

 トーの帰都だ。

 生きているだけで、国から問題視される数少ない人間。

 彼が現れた地域から、時折入る情報は、ダイの表情を曇らせるものばかりだった。

 人々には笑顔を。

 月の者には死を。

 行く先々で、トーは昔の仲間に執拗に命を狙われていた。

 そんな問題の種が、結婚式が迫るこの都に帰ってきたのである。

 何も起きずに、穏やかに過ぎ去るとは思いがたかった。

 ダイは、またも考え込まなければならないのだ。

 そして。

 最後のひとつ。

 前の二つに比べたら、気楽なものだった。

 キクが。

 美しかった。

 ただ──それだけ。
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