アリスズ

 冷たい冷たい石の床。

 ウメは、身体中を震わせていた。

 さっきから寒気が止まらない。

 おそらく、熱が出たのだ。

 荒くなる息を、必死に整えようとする。

 彼女の肺は、厚く固くなっていて、しっかり息を吸おうとしても、ちゃんとふくらまない。

 沢山の酸素を必要として、呼吸を繰り返しても、全然楽にならないのだ。

 上の方から、物音と人の声がする。

 一瞬だけ、燭台の灯りらしきものが、隙間からひらめいた。

 誰か。

 誰かが、図書室に来たのだ。

 梅は、その光の方へとはいずった。

 彼女の身体は、もはや怪我と衰弱で立ちあがれる状態ではなかったのだ。

 大声を出せればいいのに。

 きっと、それは届く。

 だが、出ない。

 か細い息のおまけほどしか、音を吐き出せないのだ。

 呪ってもダメだ。

 声が出ないなら、這うしかない。

 這って、階段を上るしかない。

 さっきの光のおかげで、ウメは何とか階段らしき段にたどり着くことが出来た。

 這っているのに、くらくらと目が回り始める。

 腕に力が、入らなくなってきた。

 一段。

 もう一段。

 ああ。

 梅の視界が、暗くなる。

 もう、一段。

 身体が、もうダメだと自分に言った。

 これ以上は、耐えられないとスイッチを切ろうとしているのだ。

 あと── 一段。

 次の段に手をかけた時。

 スイッチが。

 切れた。
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