アリスズ

 図書室。

 ケイコは、きょろきょろと視線を動かした。

 窓もない地下室は、燭台を持っていなければ何も見えはしない。

 ここで、ウメが消えたというのだ。

「ケイコさん」

 後方から声をかけられ、びくっとして振り返ると──菊がいた。

 それと、アルテン。

「探してくれてるんだね、ありがとう…こっちもアルテンが来て、ようやく動けるようになった」

 菊は、ため息をつく。

 宮殿内部は、部屋やエリアによって許可制で、菊一人ではここに立ち入れなかったのだろう。

 背の高いアルテンが、燭台を上に掲げると、遠くまで照らすことが出来るのが、とてもありがたかった。

「本当に、密室だな」

 菊が、顎を巡らせながら呟く。

 窓も扉もない。

 ここから、梅は消えてしまったのだ。

 どうやって?

 失踪の現場に来てはみたが、手掛かりらしきものも見当たらない。

「やはりもう…ここから連れ出されたのでしょう。ウメの護衛の兵士が疑わしい」

 アルテンは、踵を返した。

 護衛の兵士が嘘をついているのだと、彼はそう考えたのだ。

 梅の身を、誰かに売ったと。

 非常に都合のいい、背の高い燭台が遠く離れた時。

 あれ。

 それは──見えた。

 本は、生きていない。

 生きていないものは、光らない。

 けれど、一番奥の本棚の隙間が、微かに明るい気がしたのだ。

 勘違いかと思うほど、わずかに。

 慌てて、景子は自分の燭台を吹き消した。

 ああ。

 かぼそい、かぼそい光。

 だが──命の光が、そこにあった。
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