アリスズ
☆
アルテンと菊が、強引に本棚をこじ開けた。
棚の陰にあったのは、下り階段。
その階段の途中に──梅が倒れていた。
「梅さん!」
景子は、驚きと悲鳴で駆け寄ろうとした。
その身体を、菊に止められる。
「階段は狭い…アルテン、連れてきてくれ」
彼女の言葉は、冷静だった。
景子が駆け寄ったところで、何が出来るわけでもないのだ。
はらはらしながら、アルテンが梅を抱きかかえてくるのを待つしかできない。
だらりと下がる白い腕が、怖いほどだ。
だが。
景子には、見えていた。
光が。
彼女は、まだ生きている。
ちゃんと、生きている。
この目に、景子は感謝した。
これで、また元の三人に戻れる。
そう。
思ったのに。
梅は、執務室に運び込まれた寝台の上で、意識を取り戻さないまま、長い間高熱にうなされた。
アディマが時折、金の炎で助けてくれたおかげで、熱は何とか下がったものの、梅は目を覚まさない。
静かに、静かに横たわるだけの梅。
水分だけは、何とか与えているが、元々細かった梅はどんどんやせ細ってゆく。
つきっきりのエンチェルクも、どんどんやつれていった。
そんな最中でも。
時は無情に過ぎ、結婚式の日がやってきてしまう。
一日もずらすことの出来ない、重要な国の祭りなのだ、これは。
景子は、行かねばならなかった。
「梅なら、行って欲しいと願っているよ」
菊の言葉の後押しに、彼女は後ろ髪をひかれながらも部屋を出ようとして──振り返った。
うすぼんやりと光り続けている、梅の命の火を見るために。
アルテンと菊が、強引に本棚をこじ開けた。
棚の陰にあったのは、下り階段。
その階段の途中に──梅が倒れていた。
「梅さん!」
景子は、驚きと悲鳴で駆け寄ろうとした。
その身体を、菊に止められる。
「階段は狭い…アルテン、連れてきてくれ」
彼女の言葉は、冷静だった。
景子が駆け寄ったところで、何が出来るわけでもないのだ。
はらはらしながら、アルテンが梅を抱きかかえてくるのを待つしかできない。
だらりと下がる白い腕が、怖いほどだ。
だが。
景子には、見えていた。
光が。
彼女は、まだ生きている。
ちゃんと、生きている。
この目に、景子は感謝した。
これで、また元の三人に戻れる。
そう。
思ったのに。
梅は、執務室に運び込まれた寝台の上で、意識を取り戻さないまま、長い間高熱にうなされた。
アディマが時折、金の炎で助けてくれたおかげで、熱は何とか下がったものの、梅は目を覚まさない。
静かに、静かに横たわるだけの梅。
水分だけは、何とか与えているが、元々細かった梅はどんどんやせ細ってゆく。
つきっきりのエンチェルクも、どんどんやつれていった。
そんな最中でも。
時は無情に過ぎ、結婚式の日がやってきてしまう。
一日もずらすことの出来ない、重要な国の祭りなのだ、これは。
景子は、行かねばならなかった。
「梅なら、行って欲しいと願っているよ」
菊の言葉の後押しに、彼女は後ろ髪をひかれながらも部屋を出ようとして──振り返った。
うすぼんやりと光り続けている、梅の命の火を見るために。