アリスズ

 美しい衣装を身にまとい、金色の飾りを沢山つけられる。

 金で編まれた長い長いカツラは、本当に重く、景子は両側を女官に支えられながら、すり足で少しずつしか歩けなくなった。

 祭儀の間は、宮殿中央の奥にある。

 この姿で、そこまでたどりつくのは、気が遠くなるほどの試練だ。

 十二単や、花魁道中が景子の頭の中によぎる。

 外で駆け回る健康的な景子でさえ、このザマなのだから、か弱い女性は一体どうなるのか。

 そんな長い苦行の後、ようやく景子は祭儀の間へとたどりついた。

 入口のすぐ側に──アディマがいた。

 一瞬、彼とは分からなかった。

 何故ならば、アディマもまた金で編まれた長いカツラをかぶっていたからだ。

 同じように、まぶしい金の飾りが数多く、彼を包みこんでいる。

 その手が、景子に伸ばされる。

 祭儀の間についたら、イデアメリトスの君の手を取って、ただ同じように歩けばよい。

 そう説明をされていた景子は、重い自分の手をゆっくりと持ち上げた。

 女官たちは、下がってゆく。

 涼やかな白石の、広い空間。

 奥には、四人の神官らしき姿と、アディマの父がいる。

 手をとられ、シャナリシャナリと装飾を鳴らしながら歩いてゆく。

 時間など、ここには存在しないかのように思えた。

 神官も太陽も微動だにせず、二人が歩く音以外、全てが消え失せている。

 ようやく、彼らの近くまできて、アディマは足を止めた。

 四人の神官は、それぞれ装飾された杖を持っている。

 一人ずつ、その杖を床に打ち鳴らす。

 シャランシャラン。

 カランカラン。

 シャンシャン。

 シャランコロン。

 それぞれが、それぞれの音色を持っていて、祭儀の間に響き渡るのだ。

 その音にまぎれて香る──甘い匂い。

 ふと。

 景子は、朝から自分が何も食べていないことを思い出してしまう。

 我ながら、呑気なものだと恥ずかしくなった。
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