アリスズ
☆
「もし…これで収穫量が上がれば、他の畑もやってくれると思うの」
景子は、出立の準備をしながら、菊に語りかけた。
既に畑からは、水が抜き終わっている。
一晩、株を桶につけておいたのは、根が水に強いかどうかを見るため。
そして、土の中の偏りきった微生物が、死ぬかどうかを調べるためでもあった。
翌朝。
桶の株は、昨日よりも遥かにキラキラと輝いていて。
景子に、確信を持たせたのである。
マメ科の植物を鋤きこんだのは、土の改良のため。
微かな改善は見られたが、こちらは時間がかかることが分かった。
数種類の苗を植えたのは、景子の知る限りの共栄植物の知識を総動員したテストだ。
これも、わずかな改善の見られる植物がひとつあっただけ。
本当は穀物の後には、豆や野菜など、違う植物を作るべきなのである。
だが、それが出来ないというのならば、土を耕す時に他の種類の植物を一緒に鋤きこむのだ。
いま、別の畑で作られている豆の枯れ草を、絶対に取っておいてくれと、景子は髭の男に熱心に頼んだのである。
そして出来れば、豆の畑と穀物の畑を交互に入れ替えて使ってくれ、とも。
途中、農民とは違う男が顔を出して、彼女のやったことを熱心に聞いていったが、あれは何だったのだろう。
「すごいね、景子さんは」
菊が、穏やかに彼女をほめる。
「ス、スゴクナイヨ、全然スゴクナイヨ」
不慣れなそれに、景子は思わず日本語さえもカタコトになってしまった。
「ただ…花もご飯も…どっちも大事だと思うの」
ご飯がなければ、生きていけない。
花がなければ、心が満たされない。
植物は、そのどちらにもつながっているのだ。
祖母の受け売りである。
「景子さんはきっと…食いっぱぐれないね」
菊は、楽しそうに笑いながら立ちあがった。
「もし、この国で仕事に困ったら、農業技術者になるといい」
腰に、刀を差す。
「農業…技術者?」
景子も立ち上がりながら、荷物を背負った。
「そう…必要とされると思うよ」
そして二人は──農村を後にしたのだった。
「もし…これで収穫量が上がれば、他の畑もやってくれると思うの」
景子は、出立の準備をしながら、菊に語りかけた。
既に畑からは、水が抜き終わっている。
一晩、株を桶につけておいたのは、根が水に強いかどうかを見るため。
そして、土の中の偏りきった微生物が、死ぬかどうかを調べるためでもあった。
翌朝。
桶の株は、昨日よりも遥かにキラキラと輝いていて。
景子に、確信を持たせたのである。
マメ科の植物を鋤きこんだのは、土の改良のため。
微かな改善は見られたが、こちらは時間がかかることが分かった。
数種類の苗を植えたのは、景子の知る限りの共栄植物の知識を総動員したテストだ。
これも、わずかな改善の見られる植物がひとつあっただけ。
本当は穀物の後には、豆や野菜など、違う植物を作るべきなのである。
だが、それが出来ないというのならば、土を耕す時に他の種類の植物を一緒に鋤きこむのだ。
いま、別の畑で作られている豆の枯れ草を、絶対に取っておいてくれと、景子は髭の男に熱心に頼んだのである。
そして出来れば、豆の畑と穀物の畑を交互に入れ替えて使ってくれ、とも。
途中、農民とは違う男が顔を出して、彼女のやったことを熱心に聞いていったが、あれは何だったのだろう。
「すごいね、景子さんは」
菊が、穏やかに彼女をほめる。
「ス、スゴクナイヨ、全然スゴクナイヨ」
不慣れなそれに、景子は思わず日本語さえもカタコトになってしまった。
「ただ…花もご飯も…どっちも大事だと思うの」
ご飯がなければ、生きていけない。
花がなければ、心が満たされない。
植物は、そのどちらにもつながっているのだ。
祖母の受け売りである。
「景子さんはきっと…食いっぱぐれないね」
菊は、楽しそうに笑いながら立ちあがった。
「もし、この国で仕事に困ったら、農業技術者になるといい」
腰に、刀を差す。
「農業…技術者?」
景子も立ち上がりながら、荷物を背負った。
「そう…必要とされると思うよ」
そして二人は──農村を後にしたのだった。