アリスズ

 さあ、戻るか。

 菊は、巡礼の列を見た。

 景子の髪を編んだおばさんは、手を振って列へと戻って行く。

 どこの世界でも、面倒見のいいおばさんというのはいるものだ。

 これまで、菊たちは何度も彼女たちにお世話になった。

 お節介ではあるが、慈愛を持っている。

 多分、女の性とは切り離せない、母性という感情のなせる技。

 自分にそんなものがあるかは分からないが、好意を次の好意で回してゆく流れは、彼女の生まれた国では当然のこととして抱いている。

 小さな恩義を忘れず、出来るだけ多く返すこと。

 とりあえず、彼女はいま景子にそれを返していた。

 望み通りの町に、無事到着した。

 あとは、御曹司一行の情報を手に入れるだけだ。

 神殿をあたるのが早そうだ。

 彼女が、そんな思案を巡らせていたというのに、景子は──

 菊は、驚いた。

 景子が建物の間の脇道に、とととっと入っていったからだ。

 何かに惹かれるように。

 慌てて後を追う。

 また、何かに呼ばれたのだろうか。

 景子には、不思議な力がある。

 彼女は、決してそれを言葉にすることはなかったが、最初からそんな兆しがあった。

 この世界に来る前から。

 何か、菊には見えないものを見ている。

 太陽の果実の時といい。

 隠密らしい刺客が、襲撃した時といい。

 景子の後を追うと、細い道が開けた。

 そこは、建物に囲まれた中庭のようになっていて、中央に立派な木が一本立っている。

 何かの果実の残り香は、感じられた。

 微かな甘い匂い。

 しかし、木々に実など一つもなく、そして落ちて腐った実もない。

 みな、人為的にもがれた後のようだ。

 景子は、これに呼ばれたのか。

 迷う事なくその木の幹に触れ、上を見上げる。

 その後──おもむろに、背中の荷物を下ろし始めた。
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