アリスズ
☆
景子の髪は、二つの小さな三つ編になった。
天然パーマの髪は、実はそんなに多くはないので、編んでしまうと小さなしっぽみたいになってしまうのだ。
あ、あは。
鏡はないが、その髪型には覚えがあった。
中高と、こんな頭だったのだ。
こんな年で、二つのおさげなんて、は、恥ずかしい。
おばさんに綺麗に整えてもらった手前、勝手にほどくわけにはいかず、景子は一人で照れまくった。
菊が、そんな彼女を見て。
「私より年下に見えるよ」
と、小さく茶化す。
「ちがっ、あう…あわっ」
顔が、ますます赤くなる。
「ああ、そうか…なんか変だと思ったら、あんたたち遠くの国から来た人かい」
二人の会話は、日本語だった。
おばさんは、珍しそうな、しかし合点のいった顔をする。
「道理で、髪もそんなだったワケだ…海でも越えて来たのかい?」
どんなところだろうねえ。
見知らぬ国のことを、彼女は想像しているようだった。
反射的に、景子の心に記憶の海が甦る。
ああそうか、ここにも海があるのか。
日本は、海に囲まれた国だから、海を越えなければよその国へは行けなかった。
ここへは、海以外の何かを越えて来た。
しかし、この世界を歩いている間に、海というものには出くわさなかった。
大きな大陸なのだろう。
その内陸部を、彼女は歩いて来たに違いない。
「海は…ここから近くの海は、どこへ行けばありますか?」
行く気が、あったワケではない。
でも、聞かずにはいられなかった。
「ん? ああ、そうだねえ…このままずっと東に行った方が近いかねえ」
指された方向は、これまで歩いてきた道とは逆。
梅のいる町より、もっと遠くなるところ。
「ありがとうございます」
行こうが行くまいが、関係ないのだ。
海はどっちか。
それが分かるだけで、少し安心する自分がいる。
ああ。
私は、本当に日本人なんだわ。
海に囲まれた祖国を、彼女は胸の中で噛みしめた。
景子の髪は、二つの小さな三つ編になった。
天然パーマの髪は、実はそんなに多くはないので、編んでしまうと小さなしっぽみたいになってしまうのだ。
あ、あは。
鏡はないが、その髪型には覚えがあった。
中高と、こんな頭だったのだ。
こんな年で、二つのおさげなんて、は、恥ずかしい。
おばさんに綺麗に整えてもらった手前、勝手にほどくわけにはいかず、景子は一人で照れまくった。
菊が、そんな彼女を見て。
「私より年下に見えるよ」
と、小さく茶化す。
「ちがっ、あう…あわっ」
顔が、ますます赤くなる。
「ああ、そうか…なんか変だと思ったら、あんたたち遠くの国から来た人かい」
二人の会話は、日本語だった。
おばさんは、珍しそうな、しかし合点のいった顔をする。
「道理で、髪もそんなだったワケだ…海でも越えて来たのかい?」
どんなところだろうねえ。
見知らぬ国のことを、彼女は想像しているようだった。
反射的に、景子の心に記憶の海が甦る。
ああそうか、ここにも海があるのか。
日本は、海に囲まれた国だから、海を越えなければよその国へは行けなかった。
ここへは、海以外の何かを越えて来た。
しかし、この世界を歩いている間に、海というものには出くわさなかった。
大きな大陸なのだろう。
その内陸部を、彼女は歩いて来たに違いない。
「海は…ここから近くの海は、どこへ行けばありますか?」
行く気が、あったワケではない。
でも、聞かずにはいられなかった。
「ん? ああ、そうだねえ…このままずっと東に行った方が近いかねえ」
指された方向は、これまで歩いてきた道とは逆。
梅のいる町より、もっと遠くなるところ。
「ありがとうございます」
行こうが行くまいが、関係ないのだ。
海はどっちか。
それが分かるだけで、少し安心する自分がいる。
ああ。
私は、本当に日本人なんだわ。
海に囲まれた祖国を、彼女は胸の中で噛みしめた。