アリスズ
☆
「あ、えっと…えっと」
枝の上で、景子は焦った。
言い訳の言葉は浮かぶが、どう見ても怪しさ炸裂である。
「それ、大事な木だから、勝手に登ったら怒られるんだよ」
怒られたことがあるのだろう。
大人の真似するように、ちびっこは両手を腰にあてて憤慨した顔をするのだ。
そっか。
景子は、作業を中断した。
この木の所有者は、彼女ではない。
自然にある、誰のものとも知れない木でもない。
それに勝手に手を出すのは、いけないことだと分かったのだ。
景子は、するすると木を下りた。
昔から、おばあちゃんちに入り浸っていたせいで、木のぼりだけは得意だった。
鎮守の森のご神木に登って、叱られた前科を持っている。
あの木は、本当に美しくて優しくて、登らずにいられなかったのだ。
「ええと…お父さんかお母さん、近くにいる?」
小刀を菊に返しながら、景子はちびっこに問いかけた。
「お母さんならいるよ! 待ってて!」
ちびっこは、つむじ風のように周囲を囲む家の一つに駆け込んだ。
そして、髪を編みかけの母を、引っ張り出してきたのである。
子供が小さいせいか、まだ若い。
「まっ…お客様だなんて…ちょ、ちょっとお待ちを…すぐ髪を編んで参りますから」
景子たちを見るや、母親はすぐに家に逃げ帰った。
数分後。
改めて、彼女はそぉっと建物から出てきたのだ。
「お恥ずかしいところを…」
特に、菊を見て恥ずかしそうな顔をするのは──彼女の性別を間違っているからだろうか。
「あの、この木は…どちらの方の持ち物になるのですか?」
景子は、丁寧にそんな母親に尋ねた。
「ああ、こちらの木は、管理は私どもの地区がしておりますが…持ち主は…」
女性が手を捧げるように、遠くに向ける。
「捧櫛の神殿のものになります」
周囲は、建物に囲まれているが。
神殿は、その上に頭をのぞかせていた。
少し小高い位置にあることと、建物そのものが高いせいだ。
あら。
ということは。
この木に接ぎ木をしたいと思ったら──神殿の許可がいる、ということになるのか。
「あ、えっと…えっと」
枝の上で、景子は焦った。
言い訳の言葉は浮かぶが、どう見ても怪しさ炸裂である。
「それ、大事な木だから、勝手に登ったら怒られるんだよ」
怒られたことがあるのだろう。
大人の真似するように、ちびっこは両手を腰にあてて憤慨した顔をするのだ。
そっか。
景子は、作業を中断した。
この木の所有者は、彼女ではない。
自然にある、誰のものとも知れない木でもない。
それに勝手に手を出すのは、いけないことだと分かったのだ。
景子は、するすると木を下りた。
昔から、おばあちゃんちに入り浸っていたせいで、木のぼりだけは得意だった。
鎮守の森のご神木に登って、叱られた前科を持っている。
あの木は、本当に美しくて優しくて、登らずにいられなかったのだ。
「ええと…お父さんかお母さん、近くにいる?」
小刀を菊に返しながら、景子はちびっこに問いかけた。
「お母さんならいるよ! 待ってて!」
ちびっこは、つむじ風のように周囲を囲む家の一つに駆け込んだ。
そして、髪を編みかけの母を、引っ張り出してきたのである。
子供が小さいせいか、まだ若い。
「まっ…お客様だなんて…ちょ、ちょっとお待ちを…すぐ髪を編んで参りますから」
景子たちを見るや、母親はすぐに家に逃げ帰った。
数分後。
改めて、彼女はそぉっと建物から出てきたのだ。
「お恥ずかしいところを…」
特に、菊を見て恥ずかしそうな顔をするのは──彼女の性別を間違っているからだろうか。
「あの、この木は…どちらの方の持ち物になるのですか?」
景子は、丁寧にそんな母親に尋ねた。
「ああ、こちらの木は、管理は私どもの地区がしておりますが…持ち主は…」
女性が手を捧げるように、遠くに向ける。
「捧櫛の神殿のものになります」
周囲は、建物に囲まれているが。
神殿は、その上に頭をのぞかせていた。
少し小高い位置にあることと、建物そのものが高いせいだ。
あら。
ということは。
この木に接ぎ木をしたいと思ったら──神殿の許可がいる、ということになるのか。