アリスズ
☆
「この年まで生きておるとな…」
景子たちは、先に進むことが出来た。
この老人が、太陽の木の枝と認定した途端、彼女たちは先へと通されたのだ。
「いろんな体験をするものなんじゃよ…太陽の果実を食べたことも、一度だけじゃがある」
老人とそのお付きのやや後ろを歩きながら、景子はしゃがれた彼の声を聞いた。
「その時、果実には短い枝がついたままじゃった…わしは、それを大事に大事に朽ちるまで眺めておった」
遠い昔を、思い出す声。
「姿は、朝日の木とよく似ておるが、匂いが違う。わしは、それこそねぶるように毎日、枝の匂いを嗅いでおった…忘れはせぬ」
朝日の木。
もしや、この町にあったあの木のことだろうか。
「こ、これは…セルディオウルブ卿…ようこそおいでくださいました」
神官らしき人が、3人ほど神殿から出てくる。
その先頭は、年配の女性だった。
老人の近くに寄りながらも、落ち着かない素振りを見せる。
「久しゅう…今日はめでたくも忙しい日じゃな。これも、まばゆき太陽のお導きであるかな」
ゆるやかな卿の声に、年配の女性は困ったように微笑んだ。
「本当に…最捧櫛の儀のために、神官長のほとんどは祭壇の方にいっておりまして。私のような、若輩には手に余ることばかりです」
視線が、彼に定まっていないのは、何かを探しているからか。
それに、老人は高らかに笑った。
「太陽の木の枝を探しておるのじゃろう…こちらの娘御じゃ」
彼のすぐ後ろにいたために、卿の連れと間違われていたのか。
女性の視線が、ようやく景子と──彼女の手の中に注がれる。
「わしが証明する…本物じゃ」
彼は、軽く自分の胸に手をあてた。
「まぁ…まぁ…」
本物と言われ、女性はめまいを覚えたようによろける。
「これは…吉兆に違いありません。最捧櫛の日に、このような慶事が起きるなど」
「まったくじゃの…このことは、おそらく後々まで伝説となるじゃろう」
で、伝説?
話が、突然巨大に膨張したのだ。
景子は、二人の会話を聞き、冷や汗をかきながらおそれおののいたのだった。
「この年まで生きておるとな…」
景子たちは、先に進むことが出来た。
この老人が、太陽の木の枝と認定した途端、彼女たちは先へと通されたのだ。
「いろんな体験をするものなんじゃよ…太陽の果実を食べたことも、一度だけじゃがある」
老人とそのお付きのやや後ろを歩きながら、景子はしゃがれた彼の声を聞いた。
「その時、果実には短い枝がついたままじゃった…わしは、それを大事に大事に朽ちるまで眺めておった」
遠い昔を、思い出す声。
「姿は、朝日の木とよく似ておるが、匂いが違う。わしは、それこそねぶるように毎日、枝の匂いを嗅いでおった…忘れはせぬ」
朝日の木。
もしや、この町にあったあの木のことだろうか。
「こ、これは…セルディオウルブ卿…ようこそおいでくださいました」
神官らしき人が、3人ほど神殿から出てくる。
その先頭は、年配の女性だった。
老人の近くに寄りながらも、落ち着かない素振りを見せる。
「久しゅう…今日はめでたくも忙しい日じゃな。これも、まばゆき太陽のお導きであるかな」
ゆるやかな卿の声に、年配の女性は困ったように微笑んだ。
「本当に…最捧櫛の儀のために、神官長のほとんどは祭壇の方にいっておりまして。私のような、若輩には手に余ることばかりです」
視線が、彼に定まっていないのは、何かを探しているからか。
それに、老人は高らかに笑った。
「太陽の木の枝を探しておるのじゃろう…こちらの娘御じゃ」
彼のすぐ後ろにいたために、卿の連れと間違われていたのか。
女性の視線が、ようやく景子と──彼女の手の中に注がれる。
「わしが証明する…本物じゃ」
彼は、軽く自分の胸に手をあてた。
「まぁ…まぁ…」
本物と言われ、女性はめまいを覚えたようによろける。
「これは…吉兆に違いありません。最捧櫛の日に、このような慶事が起きるなど」
「まったくじゃの…このことは、おそらく後々まで伝説となるじゃろう」
で、伝説?
話が、突然巨大に膨張したのだ。
景子は、二人の会話を聞き、冷や汗をかきながらおそれおののいたのだった。