アリスズ

 物凄く、いい部屋に通されてしまった。

 景子は、ガチガチに固まったまま、そこに座っていた。

 周りには、誰もいない。

 そう、菊さえも、だ。

 彼女が入れない理由は、帯刀のせい。

 武器は預かると言われたが、彼女はそれを受けられなかった。

「悪いね」

 彼女は、そう言って外に残ったのだ。

 ここで彼女の身が、危なくなることはないだろう。

 だから、菊に守ってもらう必要はないのだが。

 精神的な支えがない中での一人ぼっちは、プレッシャーを増やすばかり。

 そんな彼女のいる部屋に、ノッカーの音が軽く響く。

 びくっとしながら、景子は椅子から立ち上がった。

 セルディオウルブ卿──あの老人だったのだ。

 景子は、ほぉと胸をなでおろした。

 偉い身分なのは分かるが、おしゃべり好きの優しい老人だと分かったからである。

「すまぬすまぬ…神殿に捧げてしまう前に、もう一度それに会いたくて、な」

 卿は、景子の手の中のものを見る。

 緊張がようやく解けて、彼女はようやく笑うことが出来た。

 こんな老人なのに、枝の前では子供のようではないか、と。

 差し出すと、いとおしそうに見つめた後、もう一度匂いを嗅ぐ。

 そこで、景子ははっと思い出した。

「あ、あの…た、種…種があります」

 枝はあげられないが、種ならいくつか荷物の中だ。

 景子は、慌ててそれを解いて、きちんと乾燥させた種を一粒持ち上げた。

「おお…種もあるのか…そうか、お前さんも果実を食べたのだな。しかし、太陽の木は難しい、わしも食べた種を、庭の一番いい場所に埋めたのだが、結局芽吹かなかったのだ」

 朝日の木ですら、この町では1か所しか根づかなかった。

 そう付け足される。

 彼女たちが見てきた、あの木だろう。

 んーんー。

 景子は、太陽の木とこの町の木を、頭に思い描いた。

 何か。

 何か、ひっかかったのだ。

「あ!」

 配線が──つながった音がした。
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