アリスズ

「囲まれたところに…木か建物に、囲まれたところに植えてください!」

 景子は、種を一粒──セルディオウルブ卿に差し出した。

 そうだ。

 太陽の木も、この町の木も、どちらも囲まれた中にいた。

 森の木々の中と、建物の真ん中。

 この種類の木は、周囲に何か高いものを欲しがるんじゃないか。

 景子の脳みそは、そんな答えを出したのだ。

 あれは、木にとって悪いのではないか。

 景子は、最初はそう思った。

 だが、そうじゃないとしたら?

 この木は、周囲を何かに囲まれ、日当たりが悪い方が苗木が育ちやすいのかもしれない。

 そして、太陽を目指して一直線に伸びてゆく。

 これまで、太陽の木の種だと知っていた人々は、おそらく日当たりのいい、周囲に余計な木のないところに植えようとしたに違いない。

 だから、芽吹かなかったし、根づかなかったとしたら──あの希少な扱いも理解できる。

「なん…と?」

 老人は、驚きの声をあげた。

「太陽の木は、森の中にありました…木がいっぱい茂っている中に、一本だけ」

 景子は、自分の思いつきに嬉しくなっていた。

「朝日の木? も、建物の間に生えてますよね?」

 そう付け足すと、老人は「おお、おお」と感嘆の声をあげた。

「そうであったか…かの木の幼子は、太陽が苦手であったか」

 ほっほっほ。

 卿は、愉快そうに笑う。

 景子も、にまにましてしまった。

 それでもなお、生育は難しいのかもしれないが、景子には明るい希望が見えたのだ。

「最捧櫛の儀の祝福が終わったら、すぐに帰って埋めてみようぞ」

 そう言って、卿は枝を景子に返した。

 あ。

「あの…そ、その最捧櫛の儀って…な、何ですか?」

 大層ご機嫌なセルディオウルブ卿になら、聞いても許されるような気がして。

 景子は、勇気を出してみたのだった。
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