アリスズ

 菊は、神殿の中にこそ入れなかったが、おかげで気楽に周辺を観光することが出来た。

 観光そのものに、さしたる興味はないのだが、やはり神事を行う場所である。

 建物の質は、自分の知るものと全て違うというのに、同じ気を感じるのだ。

「この世界も、やっぱりアマテラスか」

 微かに、笑みさえ浮かぶほど。

 太陽信仰は、本当に強いな、と。

 神殿の周りをぐるりと回っていると、さっき入口に立っていた護衛神官と同じ服装の連中がいた。

 こちら側には、彼らの詰め所でもあるのか。

「何者だ?」

 義務的な、誰何が飛んでくる。

 こんな場所、誰が来てもさして問題ないだろうに、そうやって聞かずにはいられないほど、毎日警備の仕事ばかりなのか。

「神殿…客…連れ」

 カタコトで、菊は答えた。

 この神殿の客という時点で、彼らにとっては大きな印籠をかざすようなものだろう。

 そう思ったのだ。

 一般人なら、最初の門番で追い返されているだろうから。

 ああ、と。

 彼らは納得したようだったが、次は少し珍しそうに、菊の腰の物を見る。

「面白い形──見せ─」

 またか。

 定兼に興味を示され、菊はすぐさま手で拒否を表した。

 そして、トラブルを避けるため、彼女は踵を返すのだ。

 さっさと、表へ戻ろうと思ったのである。

 曲がり角を、表側に曲がった瞬間。

 誰かとぶつかりそうになって、菊は反射的に飛びのいていた。

 ぎりぎりまで、気配が分からなかったのだ。

 護衛神官にも、手練れがいるんだな。

 そう思いながら、菊は態勢と衣服を整えた。

「………」

 視線を、感じる。

 菊は、整え終わり顔をそちらへと向けた。

 いま、自分がぶつかりそうになった相手だ。

 そして。

 目を細める。

 ダイ──だった。
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