アリスズ

「やっぱ来てたか…元気そうで何より」

 ダイだと分かるや、菊は日本語全開になった。

 その太い腕を、ぽんぽんと叩いて再会を確認する。

 腰には相変わらず剣をはいていて、彼も神殿の中に入れない組であることを知るのだ。

「ということは、御曹司は中か…ちょうどよかったな」

 お互い、無事で何よりだ。

 菊は──いまの自分は少し饒舌だな、と思った。

 予想以上に、この再会が嬉しかったらしい。

 半分は、景子のために。

 半分は、やはり自分のためか。

 このうすらデカイ男を見ると、非常に安心してしまうのだ。

 男の目が、菊の頭の上を左右にさまよう。

 誰かを探している様子だ。

 ああ。

 菊は、すぐに分かった。

「景子さんなら…中」

 彼女は、親指で神殿の方を指す。

 その指を目で追った後、ダイは少し考え込んでいるようだった。

 そして。

 太陽を見た。

 正確には、太陽の角度か。

 いま、何時かを知ろうとしているかのように。

 太陽は、頂点を過ぎようとしていた。

「大丈夫か?」

 珍しく長考している様子に、菊は呼びかける。

「もうすぐ…──終わる」

 視線が、神殿を見る。

 ああ。

 神事が、もうすぐ終わるのだろう。

 ということは。

 景子は、御曹司と神殿で再会出来るかもしれない。

「それは、よかった」

 菊が、穏やかに日本語でそう言っても──ダイは、まだ複雑な表情を解けないでいた。
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