たとえばあなたが
タクシーに乗り込むと、暖房で一気に体が温まった。
外にいたのはほんのわずかな時間なのに、こんなにも冷えていたのかと驚かされる。
小山は行き先を運転手に告げて、しばらく無言で窓の外の流れる景色を眺めていた。
初めて千晶とふたりでタクシーに乗ったときは、初秋の風が強くて寒かった。
あれから数ヶ月。
まったく世の中、何がどうなるかわかったもんじゃない。
ぼんやりとそんなことを思っていると、不意に右肩に重さを感じた。
振り向くと、千晶が小山の肩に頭を乗せて眠っている。
窓ガラスに、肩にもたれかかる千晶の寝顔が映っていた。
無防備なその横顔が、いつもよりも幼く見えた。
片手で簡単に折れてしまいそうなほどの、細い首。
しなやかで真っ黒な髪が、その首を這うように伸びている。
小山はしばらく、窓に映る千晶に見入っていた。
やがて、
「彼女さん、お疲れですねぇ」
と言う運転手に適当に相槌を打って、小山はまた、窓の外の流れる景色に視線を戻した。