たとえばあなたが



タクシーに乗り込むと、暖房で一気に体が温まった。

外にいたのはほんのわずかな時間なのに、こんなにも冷えていたのかと驚かされる。



小山は行き先を運転手に告げて、しばらく無言で窓の外の流れる景色を眺めていた。



初めて千晶とふたりでタクシーに乗ったときは、初秋の風が強くて寒かった。

あれから数ヶ月。

まったく世の中、何がどうなるかわかったもんじゃない。

ぼんやりとそんなことを思っていると、不意に右肩に重さを感じた。



振り向くと、千晶が小山の肩に頭を乗せて眠っている。

窓ガラスに、肩にもたれかかる千晶の寝顔が映っていた。

無防備なその横顔が、いつもよりも幼く見えた。



片手で簡単に折れてしまいそうなほどの、細い首。

しなやかで真っ黒な髪が、その首を這うように伸びている。



小山はしばらく、窓に映る千晶に見入っていた。



やがて、

「彼女さん、お疲れですねぇ」

と言う運転手に適当に相槌を打って、小山はまた、窓の外の流れる景色に視線を戻した。




< 182 / 446 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop