たとえばあなたが



ふたりは結局、閉店まで『秋桜』に居座った。

けれど最後まで忙しく動き回る和子に何も報告できないまま、渋る千晶の腕を取って、小山は店を出た。

時間帯が悪く、タクシーが捕まらないので、ふたりは電車で帰ることにした。



千晶のマンションの最寄の駅で降りる。

するとようやく酒臭い車両の空気から解き放たれて、小山はゆっくり息を吐いた。

終電間近ということもあり、普段は人の少ない駅の構内でも、大勢の人が出口に向かって歩いている。

小山も千晶と並んで、その流れに沿って歩いていた。



「そういえば、会社の近くにイルミネーションのキレイな場所があるんだってね」

「あ、丘のある公園のところでしょ。毎年、萌ちゃんと見に行くわ」

「じゃあ今年も…?」

と小山が聞くと、千晶はスッと小山の左腕に自分の腕を絡ませ、

「今年は、一緒に行く人がいるから」

と言った。



幸せそうに微笑む千晶を、小山は心の底から愛しく思った。




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