たとえばあなたが



会社を守るためなら、社員の犠牲は厭わないと言うのか。

社員ひとりも守れないで、会社を守るなんて大それたことを、よく言ったものだ。

こんなふうに部下に土下座までして、情けない。



「俺も人を見る目がないですね、今までこんな人を尊敬してたなんて」

「…すまない。悪いと思ってるんだ」

謝るのは理由を説明してからにしてもらいたい、と松田は思った。

何の事情も聞かされないまま、助けて欲しいと言われて仕事を捨てられるほどの余裕は、松田にはない。



募る苛立ちを隠せずに震える拳を握っていると、木村が、

「お前の怒りはよくわかる」

と言った。

「理不尽なことを言ってるのはわかってるんだ。でも約束するよ。今後、お前に苦労はさせない」

松田が何も答えずにいると、木村は続けた。



「新しい仕事も紹介するし、結婚後の生活のことも…。金に困ることがあったらいつでも言ってくれ」

そしてまた、申し訳ない、とうなだれた。




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