この出会いが奇跡なら-上-
あたしがそう言うと、近くにあった成斗の顔はスッと離されて、「出来たぞ」と不意にそう声を掛けられた。
「え、あ…、ありがとう」
あたしがそう言うと、成斗は何故か少しだけニヤリと口角を持ち上げた。
「礼なら言葉じゃなく、ここで返せ」
「は?」
成斗が小さくそう言った次の瞬間、不意にあたしのあごを下からクイっと持ち上げた。
「ちょっと」
「…黙ってろ」
――――まただ。この声。
この低く優しい声を聞く度に、あたしの体はゾクっと敏感に反応してしまう。
そこからどんどん成斗の顔が近くなって行く。
どうしようかと頭をはらたかせていたその時、不意に思い出さなくていいものが、不意にあたしの思考をよぎった。
『私、春にキスされちゃった』