野良ライオンと文系女の猛獣使い
今更ながら言わせてもらうと、周りの客達はそこそこうるさい。
ので、さっきくらいの大声出さなきゃ、聴こえにくいのだ。

毎度毎度、よくこんなに騒がしいとこに来れるな、と感心する。

加奈子の趣味がアマチュアバンドの観賞(?)な為に、それなりの回数を付き合わされてはいたけど、やっぱり人の多さとうるささには馴れない。
アマチュアでこれなら、メジャーバンドなんてどうなってしまうのか。


「前座ね、前座……あー、DandeーLionとかいうバンド、だったと思うけど」

「?……あんまり興味なさそうだね」

「まー、見に来たのはスーパーファングだしね。それにDandeーLionは出来たばっかとか何とか。アタシ聴いたことないしさー」


とか言いつつ出来たばっかとかいう情報は持ってるのか。
ホント好きなんだな。


「好きよー?なのに、月岡君はこういう場所苦手でさー。あざとちゃんが付き合ってくれて、良かったよ」

「ま、私も嫌いじゃないからね」

「ツンデレ?」

「うるさい」


私が加奈子を切り捨てるのと、舞台袖から金髪が飛び出してくるのは同時だった。
あ、と何人かが声を漏らしてステージを仰ぎ見る。

金髪の男と黒髪の男。共にギターを提げて現れたのが、DandeーLionだろう。


『どもー、遅ればせながらこんばんは。DandeーLionですー』


なんて、金髪の方が挨拶したのだから間違いない。
というか、開演の合図もないのにいきなりマイク持って飛び出してくるってのは常識はずれな気もする。


『ありがたいことにスーパーファングと一緒にやれるんで興奮してますが、あんまり時間もないんで、さっさといきますよー!!』


会場がDandeーLionに気付いて騒ぎ始める前に、自己紹介もそこそこにして、金髪はギターをかき鳴らし始めた。


『タンポポ』


そう囁くように投げ掛けて、金髪は唄う。


多分、それが最初。


彼を認識してしまった。最初。
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