野良ライオンと文系女の猛獣使い
加奈子は、まるでヒマワリのように微笑むと、手にしていたカップを置いて口を開いた。


「あざとちゃんがー、レオ君のことをー、すんごく熱っぽい視線でー、歌ってる間中、ずっと見てたー」

「そんなことっ……ない、よ」


また大声が出そうになったのに気付いて、慌てて声のトーンを下げる。

大体、私がアイツの歌ってる姿に見惚れてた?あり得ないわよ。


「えー。でも、真剣だったじゃない。終わってからもしばらくボーッとしてたし」

「それは……そりゃ、歌を聴きにいったんだし当たり前でしょ」

「当たり前で済ますの?アタシが呼び掛けても気付かないし、本命出てきてもボーッとしてたのに?」

「……そんなにボーッとしてた?」

「してた」

「あー…」


どうしよう、うまく言い訳が出てこない。

私が、加奈子の言う通りの状態だったなら、彼女が『あざとちゃんはレオ君に見惚れてた』と解釈してもおかしくはない。
断じて違うが。


ただ、そう。
なんとなく、アイツを見て、『楽しそうに歌うなー』と思っただけだ。
そこには歌い手と観客という立ち位置しか存在しない。
加奈子の推察は、的外れなものだ。



……そのハズなんだけど。
うん。言われてみれば、何かその後のスーパーファングのことをよく覚えてない。

いや、違うのよ?
別にアイツに見惚れた訳じゃなくて、アイツの歌に聴き入った訳でもなくて。
アイツの歌なんて特別上手い訳でもないし。や、下手くそでもないけど。
要は『聴き苦しくない』程度。そんなんに聴き入る訳がない。


だから、そう……あの時、ボーッとしてたって言うなら、アイツの表情がそうさせたんだと思う。

あんなに『楽しそう』に歌ってる人間なんて、珍しかったから。


「本当にそれだけ?」

「そうよ」

「ふーん……でもさ」


ようやく説明し終えたのに、まだ突っかかるのかこの娘は。


「それなら、やっぱりあざとちゃんから見たレオ君の印象って、そんなに悪くはないんだね」


ああ、納得はしてくれてた訳ね。
でもさ、なんでそんなに嬉しそうに言うかな?

それに対する私の応えなんて一つなのに。


「第一印象なんて、あてにならないものよ」
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