野良ライオンと文系女の猛獣使い
「飛鳥」

で、今私の名前を呼んだのが、件の兄さん。

家に帰ってきた私に「おかえり」とかいう挨拶もなく、開口一番「こないだ一緒に歩いていた男はなんだ」と訊いてくる。

『例のランナー』のことで1日加奈子に追及され続けた私は、正直『あんたもか』と言いたくなる。
質問に答える代わりに、「ただいま」とだけ返して家にあがったけど。

今日は学校での加奈子の追及を振り切るのに、体力を使い過ぎたのだ。
あんまりにも『あることないことごっちゃにして、噂に発展させよう』という意思を感じたから、ホームルーム終了とともにダッシュで家に帰ったほど。


なのにここにきて『兄さんまで』っていうのは、私的には『もう勘弁して』以外の何でもない。

しかしこの兄さんにそんな理屈は通用するハズもなく──いや、普段は通用するわよ?私が疲れてそうならそれなりの対応はしてくれるし──玄関から居間に向かうまで、延々同じ質問を繰り返される。

薄っぺらな学生鞄(学生指定、守ってる人間の方が珍しい)を適当に放り投げると、「こないだって、いつ?」と兄さんに訊き返す。
正直、このモードの兄さんは相手したくないんだけど、放っておくと曲解してとんでもない事態に発展するから、相手せざるを得ない。


「一昨日だ。ホントはその日に追及したかったが、色々あったからな」


色々というか、兄さんが忙しくてあんまり顔を合わせなかっただけじゃない。
珍しいことでもないから、気にもしないけど。

「それで?アレは何だ?」

いつの間にか『見知らぬ男』から『アレ』にクラスチェンジしてるし。

「一昨日、ねぇ…」

兄さんの全身から溢れるオーラに、面倒なことになる前に収集をつけようと、一昨日のことを思い出す。
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