ラヴレス
「…そうですか、」
キアランはふ、と緊張していた息を吐いた。
それは落胆ではなく、ほっと安堵したような吐息。
(此処にも、居ない…)
キアランは、このまま「チフミ」など永遠に見つからなくていいと考えていた。
もし見つかってしまえば、キアランが大切にしてきた様々なものに傷が付いてしまうような気がしていたから。
「それにしても、手掛かりがそれだけとは…」
思っていたよりも落ち込んでいないらしいキアランを前に住職がそう声を掛けた。
それに対して、キアランは曖昧な笑みを向ける――見目のよい彼の笑顔は、それだけで他人を穏やかにするようなものだったが。
「…こんな時間に申し訳ありませんでした。宜しければ、子供達に挨拶をさせて頂いても?」
この話題は終わりだと言わんばかりに、キアランは夫婦に頭を下げた。
「ええ、構いませんよ。少々喧しい子等ばかりですが」
奥方がにこにこと笑みを浮かべる。
それは、裏表のない穏やかな笑みで、キアランは少しばかり胸が暖かくなるのを感じた。