ラヴレス
その間、このような会話が繰り広げられた。
「…あんな小さな子をひとりで離れに寝かせているのか?」
とは、みさとを心配したキアランである。
「あんな喧しいところじゃゆっくり休めないから。つか喋るな」
これは「チィネエ」。
「可哀想だ。寂しいだろうに」
負けじとキアラン。
「喋るな」
酷い言い様である。
キアランは不愉快そうに鼻穴を膨らませ、黙った。
「チィネエ」の為ではない。
休んでいるみさとを、この聞き苦しい喧嘩で起こしてしまいたくなかったからだ。
先程くぐった玄関と同じような玄関をくぐると、「チィネエは」すぐ真横の襖をゆっくりと開けた。
「…みさと」
豆電球だけが点いた薄暗い部屋に入り、「チィネエは」囁くようにみさとを呼んだ。
その声は病気のみさとを心底から労る声で、キアランは思わずぎょっとする。
「…ちいねえ」
掠れた声が、こんもりと盛り上がった布団から聞こえてきた。
どうやらみさとは起きていたらしい。