ラヴレス
「…ねぇ、天使さん。私のおかあさんとおとうさんは、天国で仲良くしてるかなあ」
みさとは顔を上げなかった。
キアランは返事に詰まり、助けを乞うように「チィネエ」を見る。
「チィネエ」は、涙を堪えるように、その薄い唇を噛み締めていた。
けれどみさとからは決して目を逸らさず、その小さな身体がなにを訴えかけているのか、必死に見極めようとしている。
「―――…、」
そんな顔、卑怯だ。
結局、なにを言うでもなく「チィネエ」はみさとを抱き上げ、彼女を安心させるように布団へと横に寝かせた。
元気になったらあれをしよう、これをしよう、と些細な約束を取り付けて、みさとの髪を撫でながら、子守唄を歌うように。
やがてみさとから寝息が届いて、キアランと「チィネエ」は部屋を後にした。
「…僕は、余計なことをしたかな」
ひんやりと底冷えするような廊下で、キアランは低く声を抑えてそう洩らした。
痛ましい過去を抱えるこどもに対して、余りにも配慮が足りなかったのではないか。
余計な気を回し、みさとが堪えてきたものを、思い出させてしまったのではないか。