ラヴレス
落ち込んだように表情を落とすキアランに、「チィネエ」は溜め息を吐いた。
「…別に、あんたが悪いわけじゃないし」
半分以上残ったケーキが乗せられた皿を手に、「チィネエ」はキアランから目を逸らした。
廊下の向こう側にある、みさとが眠る部屋を見ているようだった。
「―――悪いのは、愛情もなくこどもを手離していく、無責任な親達だ」
それは、どこか凶悪な匂いのする言葉だった。
キアランはそれを耳に、なにやら違和感を感じて「チィネエ」を見る。
肩先まで伸ばされた髪で、表情までは見えないが。
「…みさとの両親は、生きてるよ」
闇に吸い込まれるような、声。
キアランは驚いて、声すら出せない。
「…父親に虐待されていたのを、近隣に住む人間が気付いてね。…母親は、夫婦関係がうまくいかないのはみさとのせいだと考えていて、ノイローゼ気味だった」
親戚を当たろうにも、彼らふたりのこどもを育てるというような者は現れかった。
そうして施設を巡り巡って、みさとはここ、「こころの家」に落ち着いたらしい。