ラヴレス
「…あんなに、いい子なのに」
実の両親の非道さに、愕然となる。
両親は生きていながら、解っていながら、なによりも守るべき我が子を手離したのだ。
悲痛を滲ませるキアランを、「チィネエ」は横目で流し見た。
無感情で無関心、小さな侮蔑。
・・・
「…だから、だよ。いい子にならなきゃ、殺されてた」
衝撃的な一言に、キアランは閉口するしかない。
充分に愛されてきたとは言えない自身さえ、それでも、血の繋がった叔父が居たから生きてこれた。
「…あんたさあ」
あの無垢で無邪気なみさとの壮絶な過去に、言葉を無くしたキアランを見て「チィネエ」は口調を変えた。
キアランの大嫌いな、「生意気で浅慮な女」の声である。
「…チャリティが目的で来日してるくせに、自分の足で施設訪問したの、うちが初めてでしょ」
なにを言われるかと身構えたのだが、言われた一言はキアランにとってなによりも重い一言だった。
「チィネエ」の冷ややかな視線は、廊下の痺れるような冷たさより深く突き刺さる。