心臓に悪い料理店
「……あ、キャサリン」
「えっ! ちょっ!」
どこからともなく聞こえたアルフレッドの声に反応して、スティーブンは慌てて立ち上がろうとしたその時だった。
ぽんっとポップコーンが弾けるような音が聞こえた。
「……な〜んて、うっそー……」
アルフレッドの静かな声が壁から聞こえ、ダニエルはぎょっとした。
「アルフレッド先輩! 厨房に行ったんじゃなかったのですか?」
「……行くフリをして、こっそり隠れたんだよ……」
『アルフレッドぉー、お前、よくも騙したなぁー』
「……騙したんじゃないよ。……君のその上がり症を治そうと思ったんだよ……」
悪びれた様子もなく、アルフレッドは隠れるために使った布をきれいにたたむ。
『お前に治してもらうより、店長に相談して、その筋の人に治してもらった方が絶対マシだ!』
「スティーブン先輩、お疲れ様です」
本日二回目の上がり症のスティーブンにダニエルは同情するように呟いた。
「……ダニエル、そういう時は、グッジョブって言うんだよ……」
『そういう時に言わねぇーよ、気付け、ダニエルっ! 騙されるなぁー』
感心するような眼差しでアルフレッドを見つめるダニエルに、スティーブンは慌てて叫んで訂正した。
スティーブンに同情するように店外で犬の鳴き声が響いた。
外はもう藍色の空に包まれていた。