群青ノ春

カルアコーラ

田嶋奈緒(タジマナオ)と恩田陽登(オンダハルト)がこうして二人で並んで歩くようになったのは、
一ヶ月ほど前のむせるような暑い夏の日からだった。






八月に入ると夏は勢いを増し、
朝から一日中蒸発してしまいそうなくらい気温が高かった。






自宅から離れた奈緒の職場は、一応オフィス街にある小さなデザイン事務所だった。





デザイン事務所とは言っても、洒落た化粧品のポスターなんて仕事が入ってくるわけも無く、

大体が不動産屋の広告やスーパーの値札といった物がほとんどだった。





それでもブランクのある奈緒を雇い、好きなように働かせてくれる職場は意外と気に入っていた。







事務所はクーラーの調子が悪かった。


西側にある奈緒のデスクは午後になると最悪だった。






その日は特に急ぎの仕事もなかったので、茹だってしまう前に!
と早めに切り上げ帰宅しようとした。





すると隣のデスクの高村紗英子(タカムラサエコ)が立ち上がった奈緒の肩にぐわしと腕を掛け、




「さぁて、水分補給を」と耳元で囁いた。






飲みの誘いだった。
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