見えないお姫さま
私がそこを動けばいいのは分かっている。
だけど、身体が固まって動けない。
顔が近くて息さえ出来なかった。
「アイリ様じゃないんですか?」
そんな私達の状況に気が付いていないヴァンは、再びこの距離で喋った。
「あの……」
私は意を決して声を出した。
「うわっ!」
自分の顔の真下から声がして、ヴァンは飛び退いた。
「ご、ごめんなさい!もしかして俺の下に居ました!?」
「え、えぇ」
焦っている顔が可笑しい。
ヴァンは立ち上がって私に手を出す。
「起きられますか?」
「ありがとう」
私はその手を掴み立ち上がった。
ヴァンが繋がった手を凝視する。
「何?」
「いや…、なんでもないです」
私は自分が見えているから、ヴァンにどう映っているかは分からない。
目に見えないものを掴んでいるって不思議な感覚なんでしょうね。