見えないお姫さま


私は自分の両手をヴァンの胸の位置に持ってきた。


この手に力を込めてヴァンの胸を押せば、ヴァンは私から離れる。

それは同時に私がヴァンを拒絶した事になる。


迷いながらも少し手に力を込めると、ヴァンの私を抱き締める力は弱くなった。

このまま私が腕を伸ばせば、ヴァンは簡単に離れてしまう気がする。

ほんのわずかな力で離れてしまう気がする。


私がわずかでも拒絶してしまえば、ヴァンはそれに従うんだ。

そうせざるを得ないんだ。


そこからは私の中での葛藤が始まった。

この胸を押すか、掴むか。


だけど、考えても考えても…。

私はヴァンの胸を―――。



ヴァンの胸を、掴む事しか出来ない。


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