愛の雫
「帰る……」


一言だけで呟いた後、バッグとコートを持って性急(セイキュウ)に玄関に向かった。


「おいっ!!希咲、待てって!」


すかさず追い掛けて来た凪兄に、手首を掴まれたけど…


「触らないでよっ!!説教ばっかりの凪兄なんて、パパと同じじゃんっ!!」


あたしは大声を上げながら、彼の手を払い退けた。


「希咲、ちゃんと話そ…」


「嫌い……」


凪兄の言葉を遮って小さく吐き捨てたその言葉だけを残し、逃げるように彼の家を後にした。


< 29 / 830 >

この作品をシェア

pagetop