ロシアンルーレット【コミカルアクション】
 その翌日は給料日で、俺は朝から仕事を抜け出してキャッシュコーナーへ向かった。


 昨日、耳の不自由な女とぶつかった通りを歩いてることに気付き、あの一点の濁りもない澄んだ瞳を思い出した。


 本屋の前に設置された自販機が見えてきて、『また逢えないかな』などと俺らしくないロマンチックな期待が心の中を見え隠れし、俺はそんな自分に苦笑した。


 そんな時、本屋の手前の花屋の店頭に並ぶ、色とりどりの花が目に入った。


 あの女…淡い色した、小さなか細い花みたいだった。


 そんなこと思いながら何気に店内に目をやって、俺は思わず立ち止まった。


 透明ガラスの向こう側に彼女がいた。


 花束を作るために花を選んでいる最中らしく、左手に持った数本の花に、選んだ花を少しずつ加えている。


 俺は、彼女と俺を隔てている透明ガラスを、右手を拳にしてコンコンと2回軽く叩いた。


 彼女は全く気付かない。


 そっか、耳聞こえないんだっけ…。




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