コッペリアの仮面 -琺瑯質の目をもつ乙女-
「おや、起きたのかい、コッペリア。気分は如何だい?」
行き成り背後から声がした。私は肩をびくっと動かした。穏やかな声にも拘わらず、私は戦き(おののき)、震えた。
得体の知れない何かを無気味だと思った。感情が急速に蜷局(とぐろ)を巻いた。
ゆっくりと首を回す。気配をひしひしと身に受ける。
――青年。眼鏡を掛けた精巧な顔立ちの青年。涼し気な目許に釘付けに成る。氷の様な冷たい笑みは丸で貼付けた仮面の様だ。
私の中で何かが弾ける。動悸が激しく成り、私は彼を睨み据えた。
浅い息を何度も繰り返す。過換気症候群の症状が現れ、尋常ではない程苦しい。
急遽、記憶の糸を手繰り寄せる。断片的にだけれども思い出す事に成功した。
私の愛しい記憶の破片達。其の破片から考察出来る事は唯一つ。
私は此の人に因って(よって)誘拐されたのだ。
何て、不合理な。
「コッペリア。私を睨むなんて許さないよ。」
彼は私を窘める様に其う言った。
私は睨むのを止め、怪訝そうに彼を見た。
彼は飄々として掴み所が無い。
……大分落ち着いた様だ。
彼から敵意は全くと言っても良い位に感じられない。