異常人 T橋和則物語
「いいから!様子をみてきて!」ミッシェルが声をあらげてせかした。
「わかったよ!」セロンは立ち上がった。「おわってからでいいか?」
「様子をみてきてっていったのよ、セロン!」彼女の声に焦りの抑圧があった。黒目がちな瞳はセロンをみつめ、熱っぽく輝いていた。「和則…いえ、みすずはおびえてるわ。病院から出て、知らない場所で、知らないひとたちの中で、変身までして…。それなのに、あなたは彼を傷つけたのよ」
 セロンは眉間に強烈なフラッシュをあびたような感覚にすくんだ。ちくしょう!その通りだった。確かに、セロン・カミュは和則を傷つけた。深いか浅いかはわからないが、とにかく現実はそうだ。傷つけたのだ。
「わかったよ!」セロンはズボンを履き、しぶしぶ歩いていった。彼女とのセックスは最高だった。もう少しで絶頂……だったのに。糞ったれの和則、いや、今は魚田みすずのせいで、このざまだ。ちくしょうめ。セロンはみすずの部屋につかつか入っていった。ミッシェルはバスローブを体に巻き、バスタブのお湯を出し始めた。
「……何のようだったんだ?和則…いや、みすず。魚田みすず」
 セロンは怒りを堪えながら、尋ねた。「テレビを見ていろっていったろ?」
「俺のは消えた。セロンのを見るしかない」みすずこと和則はぼんやり答えた。
「あのなぁ。ダメなの。俺は忙しいんだ」セロンはいった。抑圧のある声だった。「なにが消えたんだ?ほら。つくじゃないか!」和則の部屋のテレビがついて音が鳴った。しかし、和則は首を振り、「宿題はどうしたの?漫画やテレビばっかりみてないで、勉強しなさい!さぁ、テレビを消して! いますぐ!」とオウム返しでいった。
 セロンは呆気にとられた。何のことか意味がわからなかったからだ。
「テレビを消せ?」
 和則はうなずいた。セロンはテレビを消した。セロンの堪忍袋は今にも切れそうだった。こいつは何をいってるんだ?宿題?勉強?狂ってやがる。まあ、元々だろうけど…。だが、ミッシェルの魅惑的な裸体がまっているいうのに、こんな、美少女に変身したとはいえ、クレイジーな元・男のベビーシッターなんかごめんだ。彼は腹立ちまぎれに聖書を手にとり、「これでも読んでな!」といった。
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