異常人 T橋和則物語
セロンは敗北感を覚えた。全身の力が抜け、落ち込んだ。
「わかったよ。もう、和田にはあわせない。テレビのコメントもなしだ」セロンの声がしぼんだ。どうにでもなれ。というヤケの気持ちも混じっていた。
和則の返事はなかったが、セロンは硬直していた彼の身体が柔らかくなってきたのを感じた。間抜けみたいに手を口にいれているが、噛むのはやめたようだ。
セロンは疲れ果てた顔で深く息を吸った。「な、わかったからさ」和則にしかきこえない声でささやいた。「もう、テレビのコメントはナシ。あの…あの…」ためらった。「悪かったよ。ごめんよ。大丈夫か? 大丈夫か、和則」
のろのろとじれったいほどの遅さで、和則は手を口からだして、首をかしげた。発作が終わったのだ! セロンはにやりとし、ほっと安堵すると、「帰るぞ、和則」といった。
「アイドルやるからには売れなきゃな」
午後の都心道を運転しながら、セロンは隣の席の和則にいった。和則はまたぶつぶついっている。セロンはにやりとして、「歌はどうだ?」といった。
和則は「ダメ!ダメ!……ウォーター」といった。まさに異常人だ。
「そうか」セロンはうなずいた。「お前、頭が弱いもんな。歌詞がおぼえられないもんな」 和則は答えなかった。馬鹿にされたために腹をたてた訳ではない。呟きに夢中だったためだ。さすがのセロンも、この異常人にはかなわない。どうやってこいつを救う?
「あと二十分」ついにまたも和則の発作が始まろうとしていた。「ウォーターマンまで……あと二十分」
「あ?」
「ウォーターマンまで……あと二十分」和則には信じられなかった。腕時計はあと二十分と告げているが、テレビはどこにもない。カーテレビもなかった。
「……ウォーターマンって?なんだ?」
「アニメ、アニメ」和則は震えだした。彼は絶望のあまり、絶叫しそうになった。必死に、なにかいおうと口を開けたり閉じたりして、まるでカエルのようだった。ああ、神様!
「わかったよ。もう、和田にはあわせない。テレビのコメントもなしだ」セロンの声がしぼんだ。どうにでもなれ。というヤケの気持ちも混じっていた。
和則の返事はなかったが、セロンは硬直していた彼の身体が柔らかくなってきたのを感じた。間抜けみたいに手を口にいれているが、噛むのはやめたようだ。
セロンは疲れ果てた顔で深く息を吸った。「な、わかったからさ」和則にしかきこえない声でささやいた。「もう、テレビのコメントはナシ。あの…あの…」ためらった。「悪かったよ。ごめんよ。大丈夫か? 大丈夫か、和則」
のろのろとじれったいほどの遅さで、和則は手を口からだして、首をかしげた。発作が終わったのだ! セロンはにやりとし、ほっと安堵すると、「帰るぞ、和則」といった。
「アイドルやるからには売れなきゃな」
午後の都心道を運転しながら、セロンは隣の席の和則にいった。和則はまたぶつぶついっている。セロンはにやりとして、「歌はどうだ?」といった。
和則は「ダメ!ダメ!……ウォーター」といった。まさに異常人だ。
「そうか」セロンはうなずいた。「お前、頭が弱いもんな。歌詞がおぼえられないもんな」 和則は答えなかった。馬鹿にされたために腹をたてた訳ではない。呟きに夢中だったためだ。さすがのセロンも、この異常人にはかなわない。どうやってこいつを救う?
「あと二十分」ついにまたも和則の発作が始まろうとしていた。「ウォーターマンまで……あと二十分」
「あ?」
「ウォーターマンまで……あと二十分」和則には信じられなかった。腕時計はあと二十分と告げているが、テレビはどこにもない。カーテレビもなかった。
「……ウォーターマンって?なんだ?」
「アニメ、アニメ」和則は震えだした。彼は絶望のあまり、絶叫しそうになった。必死に、なにかいおうと口を開けたり閉じたりして、まるでカエルのようだった。ああ、神様!