異常人 T橋和則物語
なんてこった! また和則の発作だ。和則は今にも正気を失いそうだ。携帯で電話している医者はまだでてこない。今度は竹田医師じゃない。知らない開業医だ。くそいまいましい受け付け女が取り次いでくれない。交渉中なのに、和則は死にそうになってる。くそったれめ! セロンが死ぬも生きるも、この受付係にかかっているのだ。「そうです。先生にみてもらいたい病人が…いるんです。先生にすこしだけ居残ってもらって、診察をしてもらうわけにはいかないでしょうか?今日だけでいいんです」愛想のよさをありったけ込めて、説得につとめた。
 和則は今や恐怖に目を見開き、精神的に”爆発”しそうだった。ウォーターマン。ウォーターマンをみなくては。でないと、全部終りだ。何もかも爆発してしまう。
「ウォーターマンまで……あと十九分。テレビがない…きっと…きっと」彼は”間に合わない”という言葉をいえなかった。アニメ番組、ウォーターマンがみれないなんて、絶望だ。恐怖だ。和則にとって。命を落とすかも知れない。
「えぇ、そりゃあわかりますよ」セロンは携帯でいった。セロンは和則が目の前で混乱に陥っているのを見ながら、泣きつかんばかりにいった。「でも……彼は医者でしょう?
異常をきたしている精神異常者がいるんだ。この状況くらい理解しても…」
「ウォーターマンまで……あと十八分。きっと…テレビが…ない…きっと…」
 和則は白目をむいて、全身を小刻みに震わせた。発作だ。異常事態だ。セロンは和則が気絶してしまうのではないかとびくびくしながら、携帯をにぎっていた。手に汗がにじんだ。和則は爆発寸前だ。
「一生の頼みだ!」セロンはわめいた。「一生の頼みだといってるんだ!男がだぞ」
 和則がうめきはじめた。
 セロンはやぶれかぶれで「よし、じゃあ患者と話してくれ!」といって、携帯を和則のほうへむけた。「ううううう…」和則はわめいた。「きっと……ウォーターマン……きっと…テレビ…ない」
 
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