異常人 T橋和則物語
 セロンは携帯をもどして、耳にあてた。「はい。はい…わかりました。待ちますとも」よし! でかした和則。
「…テレビ…ない。きっと……ウォーターマン……」
「OK!…夕方、六時ですね。かならずいきます。約束するよ。ぜったいに遅れない。あなたに神のお恵みを」セロンは全身で安堵の溜息をついてから、電話を切った。初めて和則をしげしげ見た。和則、いや魚田みすずは完全にネジが外れたような状態だった。
「和則」セロンはさりげなくいった。「……教会のテレビは間に合わない」
「ウォーターマンまで……あと十三分。きっと…テレビが…ない…きっと…ひいぃいっ!」和則は今にも爆発しそうだ。目がぎよろぎょろとして、異様だった。
「か、和則!」セロンはいった。「この近くに同じ事務所の由美釈子ちゃんが住んでるんだったな……よし!由美釈子ちゃんのマンションのテレビで……その……なんとかマンをみせてもらおうぜ!」
 和則の胸からいっきに息が抜けた。うなずくのがやっとだった。セロンはハンドルをきり、アクセルをふんだ。「なにが……ウォーターマンだ」セロンは呟いたが、和則は耳をかすこともなかった。
「ウォーターマンまで……あと十二分」

  ようやく、由美釈子のマンションまでついた。彼女はアイドルで、ひとり暮らしだという。魚田みすずこと和則と同じ事務所のタレントで、けっこう可愛い顔の成人女性だ。ありがたいことに明りも電話もそろっていて、もっとありがたいのはパラボラ・アンテナがあること。つまり、多くのチャンネルをみれるってことだ。
 助かった、あと少しで和則の発作はおさまる。なんとかマンをテレビでみせればいいだけだ。簡単なことだ。急ブレーキを踏むと、車はマンションの前でとまった。「とにかく走れ!」セロンは爆発寸前の和則の手をひっぱり走らせた。いつ、和則が自爆して、なんとかマンをみれないばっかりに煙りのように
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