SleepingBeauti
冗談の一つでも言えるなら、ぼくはこうこたえたに違いない。

あった瞬間からだと。

冗談や嘘などつけるような人付合いをしていないぼくは、事実を伝えることしか出来なかった。

付き合ってなどいない。

だけど、一緒に暮らしている。

口には、出せなかったけど、ぼくは、のぞみのことを何一つ知らない。

そう何一つ知らない。

誕生日も、仕事も、一緒に暮らしているなら、知っていて当然のことすら、ぼくは知らない。

河内百合は面食らったような表情をしたが、口にしたのは一言だけだった。

「そっか、付き合ってないんだ」

聞きたいことは、沢山あったはずだろう。

それでも、河内百合はきかなかった。

聞けないのではなく、聞かなかった。

余計な詮索はしなかったのだ。

やっぱり河内百合は完璧な女性だ。
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