渇望
「寝てた。」


どこで、誰とか、なんて無駄なことは言わないけれど。


香織は自分で聞いておいて、ふうん、なんて興味もなさそうな顔をする。



「ねぇ、百合ー。
どっかに格好良い男いないわけ?」


「んなもん、あたしに聞かれてもねぇ。」


昨日の瑠衣という男のことを言おうとは思わない。


と、いうか、香織に言ったってろくなことにはならないのは、目に見えているのだし。



「誰か紹介してよ、紹介!」


「はいはい、また今度ね。」


「やったぁ!
百合、マジでアンタは親友だね!」


香織の扱いは、多分簡単だと思う。


褒めれば舞い上がるし、金とブランドと男好きの象徴のような女。


そして誰より寂しがりで、だからいつも、この部屋の窓は開いているのだ。


ふと、目に留まったのは、灰皿の中身。



「ねぇ、またアイツが来てたわけ?」


「あぁ、まぁね。」


大嫌いな赤ラークのピンカスを、苦々しくも一瞥してしまう。


どうして香織はあんな男が良いのか謎だけど。



「良いけどね、何でも。」


パンを食べ終え、あたしは部屋を後にする。


こんな寒いところに長居すれば、こっちが風邪を引いてしまいそうだし。

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