渇望
「百合、着いたぞ。」


そんなジローの声に、漂う意識を引き戻された。


気付けばもう、胡散臭いラブホテルの前だ。


吸っていた煙草を灰皿になじり、軽くルームミラーで髪の毛を直す。


他の店ではホテルの前で待ち合わせる場合もあるようだが、うちの店は、お客が先に部屋に行き、そこで女の子を待つのが方針。



「一時間半後に、ここで。」


「ほーい。」


「いってらっしゃい。」


「はいよ。」


あたし達はいつも、同じ会話しかしない。


きっとあたしはジローを見下しているのだろうし、ジローもまた、あたしを見下しているのだろうから。


車を降り、ホテルに入って指定された部屋のドアをノックする。


少しして顔を覗かせたのは、小太りのおっさんだった。



「百合、会いたかったよ。
さぁ、入って。」


「お久しぶりです、高田さん。
ご指名ありがとうございます。」


キャバクラじゃないんだから、とは思うけど、客に対する礼儀にはうるさい店だ。


結局はセックスするだけなのに、そんな上辺が何になるのかはわからないけれど。


部屋の中へといざなわれ、荷物を置いて上着を脱いだその瞬間、待ち切れなかったと言わんばかりにベッドへと押し倒された。


礼儀がどうのと言うくせに、部屋に入ってしまえば制限はない。


どこでどんな行為をするも良し、何もしないで時間を終えるのも良し、らしい。


あたしは静かに目を閉じた。

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