Escape ~殺人犯と私~
少年はキッチンに居て、空になった電気ポットに水を注いでいた。



ヒョコッと顔を出して、ソファーを覗き込む。



制服はない



「緋央さん、お茶いかが?」



私の居る方向に、お茶の入った湯のみを移動させた。



私は礼を言ってソファーに腰掛けながら、辺りを見回した。



「あの…私の制服は…」



少年がキッチンに居る内に聞くと、お婆さんは申し訳無さそうに私の方向を振り返った。



「お茶をこぼして洗ってしまったの。本当にごめんなさい。」



私は動揺した。でも、制服をソファーに置いておいた私が悪い。
全く気にしない振りをして、干してある場所を聞いた。



お婆さんは自分の部屋のベランダを指差した。



少年が、朝日が当って渇きやすいからって、お婆さんの部屋に干したらしいけど。

絶対に、私が取りに行きにくい場所を狙ったんだ…。



私はお婆さんに断って部屋に入ると、何も無い狭い和室にある、半間の障子を開いた。



窓の外に私の制服が有った。



けど、外はしとしと雨が降っていた。



窓の上にはひさしが無いので、ハンガーに掛けられた制服は濡れてる。



少年にやられた。

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