Escape ~殺人犯と私~
テーブルに顔を伏せていた私は
やつれた顔を上げて、扉を振り返った。
少年は部屋の鍵を持ってたらしく
外から鍵がはずされた。
扉が開くと
ギラつく刃物が目に留まった。
真っ黒い制服に身を包んだ
死に神を思わせるような少年が部屋に現れた。
遺書を持った私を的に得たように
彼は、揺らぎの無い足取りで向かってくる。
危機感から
本能的にソファーから立ち上がった。
でも私は
逃げずに立ち尽くすだけだった。
私の目前まで近付いて来た少年は
まるでさっきの続きのように
冷たい左手で
私の喉元に触れた。
視線は床に伏せたままなので
目元が、漆黒の前髪で陰っていた。
薄暗い闇と同化した、黒い影だった。
その影から、白い手が伸びていて、私の首を掴んでいた。
闇とは対照的に、おぞましくギラつくナイフを掴んでいる手は
私の胸ぐらを掴む。
ドンッッ!
掴まれた首と胸元を、押された私は
壁に背中を叩きつけた。