Escape ~殺人犯と私~
痛みで表情を歪めたけど
掴まれた首には、まだ圧迫感を感じない。
私の胸ぐらを掴んでいたナイフを持つ手は移動して
私の喉元にナイフを突き付けている。
壁を背に、逃げ場を失った私は、一切抵抗を見せず
手に持っていた遺書を
俯いたままの少年に、見えるように掲げた。
それは、破り捨てた偽遺書とは違うもので。
さっき私が書いた
直筆の遺書だった。
それを見た少年は
下を向いたまま視線だけを私に向けた。
どうせ誰も、助けてくれないんだって思ったら
生きるのが嫌になった。
私なんか必要にされてないんだから
殺されたって良いと思った。
「……殺せば……?」
私の言葉に、少年は無表情のまま私を視ていた。