Escape ~殺人犯と私~
数日ぶりに制服に袖を通す。



長かった。

まるで何ヶ月も監禁されていたように錯覚していて

制服の着心地が懐かしく思えた。




カバンは返してもらえなかった。でも、財布は返してもらえた。




無事逃げ切れるか……。



まるで鬼ごっこで追われているような

焦る気持ちを抑えながら



私は急いでブレザーを羽織って、玄関に用意されたローファーを履く。




雪溶け水で濡れていたのに、すっかり乾いてた。



玄関のドアノブに手をかけ、家を出ようとしたとき



カチャッ。と、居間の扉が開いた音がした。



おばあさんが廊下に出てきたのを感じた。



スリッパを擦る足音が聞こえ、私の背中から少し距離をおいて

ピタリと止まった。





「気を付けて。いってらっしゃい。」




盲目のおばあさんは、背を向けている私の方向を見ながら

優しく見送ってくれているらしい。



お婆さんは私にずっと優しくしてくれたのに



私はおばあさんを振り返ることも


返事をする事も出来ない。



無視をするのは申し訳ない。



でも

早く逃げ出したいという焦りがはるかに勝る。




優しさに引き留められてしまうんではないかという不安が



私を急かす。




ガチャンッ。



お婆さんを無視した私は

少年もろとも断ち切るように扉を出た
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