【長編】唇に噛みついて


しばらく睨み合うと、零は呆れたようにため息をついてベッドに倒れ込んだ。


「……はいはい」


……てか!!


「零は学校は?」


そう聞くと、零はベッドに寝転がりながら手をヒラヒラとさせる。


「俺は文化祭があったから、今日は振り替えー」


な……。


「ずるっ」


ボソッと呟くと、零はにんまりと幸せそうな笑顔をした。


「学生の特権だし、しょうがない」


そう言われてイラッとしながらも、着替えて荷物を手に取った。
髪も適当にクシで梳かすだけで、ご飯も食べずに玄関へ向かう。
靴を履いて、玄関の扉を開けようとした瞬間。


「きーちゃん!」


大声で呼び止められて振り返ると、上半身裸の零が立っていた。
下はズボンを穿いてはいるものの、トランクスがチラッと見え。
そして程よく筋肉のついた上半身に顔がカッと熱くなる。
思わず目を逸らすと、零はゆっくりと近づいてきてあたしの顎を持ち上げると、チュッと触れるだけのキスをした。
すぐに離れると、零はニコッと笑って言う。


「お仕事頑張って♪いってらっしゃーい」


手を振りながらあたしを見送る零に、あたしはただ真っ赤な顔のまま。


「……いってきます」


としか言えなかった。


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