My fair Lady~マイフェアレディ~
俺は驚いた後、ジワジワと恐怖が競り上がって来て。
叫び声をあげた。
扉が目の前の怪物によって徐々に開いてきているのだ。



片腕が伸びて、俺を捕らえようとしている。

「うが…ああ…ぁああ」

呻き声が部屋に響いて、俺はそれを掻き消すように叫んだ。


転げるように走り出し、扉の前まで来ると鉄の棒を握るのも忘れて俺は素手でその冷たい扉を死に物狂いで叩いた。

「助けてぇええ!!お願い!パパン!パパン!ぱぱぁああん!!」

彼を呼ぶと、後ろの怪物はさらに大きな動きをし始めた。

「お願い!開けて!あけてぇええ!!いやああ!ごめんなさい!ごめんなさぁい!お願い許して!開けてよおお!!」

どんなに呼んでも、扉の向こうは物音一つしない。

手は赤くなっていった。どんどん叩いて、その痛みなど気にも留めなかったが、ブチッという嫌な音で手を見れば、握り込みすぎた手の皮膚と爪が食い込んで血が流れていた。

俺は唖然とそれを見ていた。だが、すぐにまた扉を叩く。扉に赤い血痕がついていく。
仕舞いには泣き出して、俺は喉をひくつかせながら叫んだ。

「ぱぱあん…!う、くっ、お願い、出してぇ……!!」

俺の必死な叫びが届いたのか。扉はゆっくり開いた。


俺は彼に突進するように飛びつく。
彼はそんな俺を受け止めて、あのバケモノを視界に入れたのか納得したように「ああ」と呟いた。

「まったく…。おいたが過ぎるぞ」

彼は俺を抱え上げて、スタスタと歩いてバケモノの目の前に来た。

「ひいいっ」

俺は引きつった声を上げて彼に縋る。すると俺と同じようにそのバケモノは彼を見て心底怯えたように中に引っ込んでいった。その大きな眼球から粒のような涙が零れている。

俺はその様子にバケモノと彼を交互に見比べていた。
彼はフッと笑うと俺の涙を手で拭った。

そして優しい笑顔で言う。

「反省のない悪い子には……とことんキツい、お仕置きが必要のようだな」


俺の顔が絶望的に青くなったのを楽しそうに見た後、彼は俺を抱えたままバケモノのいる部屋へと入り。扉を閉めた。


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