さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
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レイラが囚われの身となってひとつきが過ぎようとしていた。
レイラは部屋で、朝から晩まで礼儀作法を学ばされ、本物の姫君のような待遇を受けていた。
家族と会う自由はなく、絶えず見張りが傍についていたものの、
暴力を振るわれることもまたなかった。
本当に皆が無事なのか、何度も不安になったが、
レイラは家族の無事を信じて頑張るしかなかった。
今日もレイラは、美しい布地で縫われた緋色の衣に袖を通し、
この国の王族についての知識を学んでいた。
「ご領主様のお越しです」
侍女の声と共に現れたのは、例の嗄れ声の主だ。
この辺りの領地を治めている男の名はジマールといい、
かなり高い地位と権力を持っているということを、
レイラはこの館に来て初めて知った。
今ではこの男の娘として振舞う事も、違和感なくできる。
「お父様。良くお越しくださいました」
レイラの頭に飾ってある黒い薔薇を模した髪飾りが、
シャランと音を鳴らす。