さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
ジマールは固い顔を崩さず、うむ、とだけ口にした。
「勉学はすすんでいるか」
レイラの後ろに立っていた中年の女が、ジマールの視線を受けて頭を下げる。
「はい。姫様の飲み込みはとても早く、どこへ出しても恥ずかしくはございません」
姫様、というのはレイラのことだ。
その呼ばれ方には、いまだにどうしても慣れずレイラは俯いた。
「そうか、なんとか間に合ったな」
その言葉を聞き、ジマールが初めてほっとしたように頬を緩めた。
「それでは」
レイラに厳しく作法を教えているその女は、ジマールの言葉に、姿勢を正す。
「早く娘をよこせと、矢のような催促だ。
明日にも使者をたて、城へ送り込もう。
ソリャン王子がこれを気に入ってくれれば良いのだが」
“これ”と言いながら、ジマールの眼光がレイラを捕らえる。
“これ”が自分を指す言葉であることが分かり、レイラは身を固くして、自分の処遇についての話に耳を済ませていた。