花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
◆迷える羊


   +++

「千歳……千歳……」
「……ん? 何……」 
 肩を揺すられ閉じていた瞼を開けると、薄く広がった視界に自分の顔が見えた。いや、千早だ。
「小梅達……来たよ」
「え? ああ……って、あれ?」
 慌ててがばっと身を起こす。
「ちーちゃんおはよ~」
「おお。姫が起きた」
「誰が姫だ。誰が」
 条件反射のように綾人に言い返し完全に開いた目で見渡すと、見慣れた自分の部屋。テーブルの上には小梅手製の弁当が並べられていて、小梅と綾人が腰を降ろしている。
「やべ、寝てた。もう昼?」
 千歳が起きたのを確認して千早もテーブルの方へと移動して腰を降ろす。大きく伸びをして、千歳もゆっくりベッドから降りて床に座り込んだ。
 やはり昨夜の寝不足は回復しきれず、研究所から戻ってすぐ眠くなってしまった千歳は小梅達がきたら起こすように千早に頼んで仮眠を取っていたのだ。
 あまりの眠気に気にも止めずに頼みごとをして眠っていたが、そういえば二時間近く。千早は何をしていたのだろう。そう思い千早の顔へ視線を向けると、
「わたしのせいで昨夜は眠れなかったんだろう? 気にするな」
 まるで心を読んだかのような返事が返ってきた。
「おお……以心伝心? なんかえらく仲良くなってね?」

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